日本共産党 田村智子
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【14.05.23】 本会議 地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案について

○田村智子君 日本共産党を代表して、地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案について質問します。
 今回の法案は、教育の自主性を保障するためにつくられた教育委員会の制度を大きくつくり替えるものです。教育委員会を代表する教育委員長のポストをなくし、その職務を教育長に与える、教育長は首長が任命するとしています。
 現在の教育委員会は、教育長を任命し、罷免もできる、また教育長を指揮監督する権限を持っています。ところが、立場は逆転し、教育長が教育委員会のトップとして大きな権限を持つことになります。
 下村文科大臣は、衆議院の審議で、首長が教育長を任命するに当たって、自分の選挙公約はこうだ、あるいは住民に対して自分の考えている教育政策はこうだということをきちっと伝えるという答弁をしています。これでは、首長が教育長を代理人として自分の意に沿う教育行政を行わせることになるのではありませんか。総理並びに文部科学大臣に伺います。
 子どもの権利・教育・文化センターが行った全国の教育委員へのアンケート調査では、このように首長の意向がより反映しやすい仕組みに変えられることに反対あるいはどちらかといえば反対との回答が約七割に上ります。
 また、全国連合小学校長会会長、全日本中学校長会会長は、連名で、首長の個人的な思想、信条により教育施策がゆがめられることがないよう歯止めを掛ける制度の検討を要望しています。
 総理、首長の意向で教育施策がゆがめられるという教育現場からの懸念にどう答えますか。それが杞憂だというのならば、そうならない保証が法案のどこにあるのか、明確にお答えください。
 法案は、地方自治体の教育政策の方針となる大綱を首長が決定することとしています。この大綱には、本来、教育委員会の権限に属することまで盛り込むことができます。例えば、愛国心教育に最もふさわしい教科書を採択するなど、首長の政治的意向を込めた方針や、愛国心を通知表でABC評価するなど、子供の思想、良心の自由を侵すような内容まで書き込めるのではありませんか。
 大綱は首長と教育委員会で構成する総合教育会議で協議するとしていますが、大綱の決定権限は首長にあります。では、協議がまとまらなかった場合にはどうなるのか。衆議院の審議では、それでも首長の権限で大綱を決定することができる、しかし、教育委員会は同意していない内容については拘束されない、つまりは執行しなくてよいという答弁がありました。
 執行できない大綱を作る意味がどこにあるのでしょうか。なぜ総合教育会議で協議し、合意することを前提としないのか。結局、大綱を圧力として教育委員会を首長に従わせることになるのではありませんか。総理の答弁を求めます。
 そもそも、今回の法改正は、学校現場や教育委員会などが求めたものではありません。日本教育新聞が行った市町村長、教育長のアンケートでは、この法改正は有効との回答は僅か〇・四%、どちらかといえば有効を含めてやっと二割強。一方、有効とは言えないは一五・六%、どちらかといえば有効とは言えないを含めれば過半数に達しています。自治体はこのような法改正を必要としていない、このことをはっきりと示しています。
   〔副議長退席、議長着席〕
 法改正の最大の根拠とされてきたのは責任の所在の不明確さでしたが、いじめ事件などで子供の命に関わる問題は、現行法制度の下でも自治体の首長に市民の生命を守る責務があることは明瞭です。また、教育委員長は合議制である教育委員会の代表という立場であって、執行上の責任を負っているのではありません。今でも、教育長は教育委員会から委任を受け、教育行政への直接的な責任を負っている、このことは衆議院の議論で文部科学省自身が認めています。
 責任の所在の不明確さという理由さえも破綻しているのではありませんか。現職の教育長の多くがこのような法改正は有効ではないと答えていることをどう受け止めますか。
 教育委員会は、教育の地方自治、首長からの独立性、教育についての多様な民意の反映という三点を眼目として、住民を代表する組織として発足しました。衆議院の審議では、三つの眼目は今も変わらない旨の答弁がありましたが、総理はどうお考えですか。
 我が党は、教育委員会が国民から期待される役割を発揮できるような改革こそ、今求められていると考えます。教育委員たちが保護者、子供、教職員、住民の不満や要求をつかみ、自治体の教育施策をチェックし、改善すること、教育への見識や専門性を持つ人物の確保、憲法と子どもの権利条約の立場に立って行政を行うことなどによって教育委員会を活性化することこそ求められていると考えますが、総理の所見を求めます。
 最後に、安倍内閣が掲げる教育再生についてお聞きします。
 第一次安倍政権は、愛国心を盛り込んだ教育基本法を成立させました。そして、政権に返り咲いた総理は、この教育基本法の目標の達成を事あるごとに強調しています。
 昨年四月十日、衆議院予算委員会で、かつて総理とともに教科書議連のメンバーであった議員が、従軍慰安婦、そういう者はいなかった、南京事件もなかったと、従軍慰安婦や南京事件を記述する歴史教科書を否定する質問をしました。これに対し総理は、教科書の検定基準において改正教育基本法の精神が生かされていなかったと思う旨の答弁をしています。
 今日の歴史研究は、南京虐殺も日本軍慰安婦も、旧日本軍の侵略と植民地支配の中で起きた極めて深刻な残虐行為、人権侵害行為であったことを動かし難い事実としています。政府も河野談話でこのことを認め、外務省ホームページで国内外に政府の立場を示しています。
 総理にお聞きします。南京での虐殺並びに日本軍慰安婦の事実を教科書で記述することは教育基本法の精神に反しているのでしょうか。
 河野談話では、歴史の真実を回避することなく、歴史研究、歴史教育を通じて長く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという決意を表明しています。つらい事実から目を背けずに正面から受け止め、そこから教訓を導き出して新しい歩みを始める、この立場こそ真の愛国心を培うものではありませんか。逆に、歴史の事実をゆがめることは、ゆがんだ愛国心をもたらすのではありませんか。
 子供たちにお国のために血を流せと教えた戦前の教育は、国による教育の支配によってもたらされました。この痛苦の反省に立って、憲法は、政治権力による教育内容への介入、支配を厳しく戒めました。そして、教育の自主性を守るために教育行政を首長から独立させた、それが教育委員会制度の出発点です。
 国家が愛国心教育を押し付け、政治介入に道を開く教育委員会制度の改悪を行うことは、現行の憲法の下では決して許されない暴挙です。法案の廃案に力を尽くす決意を述べ、質問を終わります。(拍手)

   〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 田村議員にお答えをいたします。
 首長の意向のみで教育行政が行われるのではないかとのお尋ねがありました。
 改正案では、首長による大綱の策定や総合教育会議の設置を通じて、より一層民意を反映した教育行政の推進を図るとともに、首長が教育長と教育委員長を一本化した新教育長を直接任命、罷免することにより、首長の任命責任を明確化することとしております。
 その一方で、教育委員会を引き続き合議制の執行機関として残すことにより、教育の政治的中立性、継続性、安定性を確保するとともに、首長が教育長を任命、罷免する際には議会の同意を得ることとし、議会において教育長の資質、能力を三年ごとに丁寧にチェックすることとしております。したがって、首長の意向のみで教育行政が行われるとの懸念は当たりません。
 大綱の記載内容についてお尋ねがありました。
 大綱は、地方公共団体の教育の振興に関する総合的な施策について、その目標や施策の根本となる方針を定めるものですが、教育委員会が適切と判断した場合においては、教科書の取扱いに関することなど、首長の権限に関わらない事項について記載することも可能です。ただし、この場合においても、子供の思想、良心の自由を侵すような内容を記載することは適切ではないと考えております。
 大綱の決定権限についてお尋ねがありました。
 教育行政における地域住民の意向をより一層反映させる等の観点から、大綱は首長が策定するものとし、教育委員会との合意までは必要としておりませんが、策定の際には、教育行政に混乱が生じないようにするためにも、首長と教育委員会との間で十分に協議し、調整を尽くすことが重要であると考えております。
 仮に、教育委員会と調整が付かない事項を首長が大綱に記載した場合には、当該事項について教育委員会には尊重義務がなく、その執行については教育委員会が判断するものであることから、大綱を圧力として教育委員会を首長に従わせるとの御懸念は当たらないと考えております。
 責任の所在の不明確さという法改正の根拠と現職の教育長の受け止めについてお尋ねがありました。
 現行の教育委員会制度においては、合議制の執行機関である教育委員会、その代表者である委員長、事務の統括者である教育長の間での責任の所在が不明確であるという課題が指摘されています。
 このため、教育委員長と教育長を一本化した新教育長が地方公共団体の教育行政の第一義的な責任者として教育事務を行うよう、現行制度を見直すこととしています。また、新教育長については首長が直接任命することとしており、首長の任命責任が明確になると考えております。
 なお、全国市長会からは、今回の改正により、首長の権限が強化され、責任の所在の明確化が図られることとなることを期待すると表明されていると承知しております。
 いずれにせよ、関係者に対しては、今回の改正の趣旨等について丁寧に説明してまいります。
 教育委員会制度の趣旨等についてお尋ねがありました。
 これまで教育委員会制度の趣旨とされてきた教育行政の地方分権、首長からの独立性、住民の意思の反映といった考え方については、改正案においても基本的には変わらないものと考えております。一方で、現行の教育委員会制度については、責任の所在が不明確である、地域の民意が反映されていない、危機管理能力が不足しているという課題が顕在化しております。
 もとより、教育委員の人選の工夫や教育委員自身による努力と責任の自覚といった運用の改善により教育委員会の活性化を図ることは当然ではありますが、このような運用の改善だけでは十分ではなく、制度の抜本的な改革が必要と考えております。
 教科書の記述と愛国心についてお尋ねがありました。
 伝統と文化を尊重し、それらを育んできた我が国と郷土を愛する態度を養うことができるよう、我が国の歴史について子供たちの理解を深めることは重要と考えております。
 教科書にどのような事項を取り上げ、どのように記述するかは教科書発行者が判断し、申請した内容について、先般改正した検定基準に基づき検定がなされるものであり、南京事件、慰安婦についてもその中で取扱いが検討されるものと考えます。
 今後とも、教育基本法の趣旨を踏まえ、バランスよく記載された教科書を用いながら、我が国の歴史について子供たちがしっかりと理解を深めていくことができるよう取り組んでまいります。
 残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。(拍手)
   〔国務大臣下村博文君登壇、拍手〕

○国務大臣(下村博文君) 田村議員から、首長が教育長を代理人として自分の意に沿う教育行政を行わせるのではないかとのお尋ねがありました。
 首長が教育長の任命に当たって教育行政の方向性を示すことは当然にあり得るものと考えます。また、大綱の策定や総合教育会議における教育委員会との協議を通じて、首長はその意向を教育行政に反映できるようになります。
 しかしながら、改正案においても、新教育長は合議体である教育委員会の意思決定に基づき事務を執行する立場であることは変わりがありません。
 したがって、首長が教育長を代理人として自分の意に沿う教育行政を行わせるものではないかとの御指摘は当たらないものと考えます。(拍手)

○議長(山崎正昭君) これにて質疑は終了いたしました。