LGBTQなど性的少数者の願いに逆行するLGBT法4党案の採決が15日の参院内閣委員会で、古賀友一郎委員長の職権で強行され、自民、公明、維新、国民民主の賛成多数で可決しました。日本共産党、立民、れいわは反対しました。
共産党の田村智子議員は反対討論で、最大の問題は、維新、国民の案をベースに「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう留意する」との条文が持ち込まれたことだと主張。「マイノリティー(少数者)にマジョリティー(多数派)の安心を脅かすことのないよう『わきまえろ』と求める。これがマイノリティーの人権擁護の法律か」と批判しました。
田村氏は、法案審議で取り上げられたトイレや公衆浴場などのスペースは、「誰にとっても安全であるべきだ」と強調。その上で、「女性の安全が脅かされている現状は、性暴力の防止、被害者支援の法整備と取り組みの不十分さが問題であって、LGBTの権利に関わる法案の焦点として語るなど、全くのお門違いだ」と批判しました。
また、学校での教育・啓発は「家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ」行うとする条文も、“多数派が許容する範囲で”性的少数者の人権を認めることになりかねないと指摘。同条文を根拠に「学校の実践をやり玉に挙げるようなことはあってはならない」と主張しました。
田村氏は、当事者の根底にある思いは「私が私として生きたい、ただそれだけだ」と述べ、「個人の尊重、ジェンダー平等、多様性の尊重へ私たちは決して絶望することなくともに歩み、必ず時代を動かす」と表明しました。
性的少数者への差別解消へ 法整備は一刻を争う/田村智子氏に参考人
日本共産党の田村智子議員は15日、参院内閣委員会のLGBT法4党案の審議で、性的少数者が抱える困難という原点に立ち返った議論が必要だと述べ、参考人への質疑を行いました。参考人は、性的少数者への差別を解消するための法整備は「一刻を争う状況だ」と訴えました。
性的少数者のための法整備を目指す「LGBT法連合会」の神谷悠一事務局長は、カミングアウトしていない大多数の当事者は「気付かれないようひっそりと暮らしている」と指摘。差別や偏見を恐れ、プライベートの生活などありのままに話せない苦しさは、24時間365日続いていると強調しました。
一方、カミングアウトした人たちも、職場や就活などで差別や不利益を被っており、トランスジェンダーが性暴力の標的になっていると説明しました。
田村氏は、法案が学校での教育について「家庭及び地域住民らに協力を得る」としていることについて質問。神谷氏は、親の理解が最も困難で、学校で理解ある先生と出会うことが孤立を防ぐと強調しました。
田村氏は、修正で追加された「全ての国民が安心して生活できるよう留意する」との条文について質問。神谷氏は、「国民の間に分断を生む。いじめや差別の原因となる無理解を擁護し、差別を温存するために活用される懸念がある」と指摘。法案の基本理念である基本的人権を享有し個人として尊重されることに反し、「百八十度真逆の効果をもたらす」と語りました。
田村氏は、これまでの審議で当事者の苦悩が議論されておらず、法案採決はできないと主張しました。
LGBT法4党案/田村智子議員の反対討論要旨
最大の問題は、第12条が、維新・国民案をベースに持ち込まれたことです。「全ての国民が安心して生活できるよう留意する」―法律の目的を百八十度転換し、マイノリティーにマジョリティーの安心を脅かすことのないようにと求める、これがマイノリティー人権擁護の法律なのでしょうか。審議でLGBTの方が直面する問題ではなく、トイレなど女性スペース問題ばかりが取り上げられたことに、12条の意味するところは明らかです。
上野千鶴子氏など22人が呼びかけ人となり「LGBTQ+への差別憎悪に抗議するフェミニストからの緊急声明」が発表されました。「女性の安全がトランスジェンダーの権利擁護によって脅かされるかのような言説は、トランスジェンダーの生命や健康にとって極めて危険なものになりかねません」との批判は、法案審議にも向けられたものと受け止めるべきです。
トイレや公衆浴場は、だれにも安全であるべきです。女性の安全が脅かされている現状は、性暴力の防止、被害者支援の法整備と取り組みの不十分さが問題であって、LGBTの権利に関わる法案の焦点として語るなど全くのお門違いです。
トランスジェンダーも深刻な性被害を受けているのに被害を認められず、支援や相談の対象にもならない、自分の性的指向・性自認による差別排除への不安を24時間、365日抱え続けている―参考人から示された生きづらさ、孤独、差別は命に関わる問題です。LGBTQ+の人権擁護、差別解消の緊急性は明らかなのに、審議でそこに焦点が当たらないのは異常です。
学校での教育、啓発は家庭・地域住民の協力を得つつ行うとの条文も、多数派が許容する範囲で認めるということになりかねません。性的違和感を抱く子どもが学校を通じて理解あるおとなとつながる機会が奪われ、孤立を深めてはなりません。
「差別は許されない」が「不当な差別はあってはならない」と書き換えられ、国に義務づけた調査研究が学術研究に置き換えられ、「民間団体などの自発的な活動の促進」も削除するなど、法案はずたずたに後退させられました。
国会の全政党に何度も足を運び、対話を続けてきた当事者のみなさんに心からの敬意を表します。根底にある思いは、私が私として生きたい、ただそれだけだと思います。その切なる願いに応えた理解増進、差別解消の取り組みは、全ての人が個人として尊重される社会を実現するでしょう。個人の尊重、ジェンダー平等、多様性の尊重へ私たちは決して絶望することなくともに歩み、必ず時代を動かします。
2023年6月16日(金) しんぶん赤旗