日本共産党 田村智子
コラム

【14.09.17】返還された米軍基地を荒地にしてはならない

深谷通信所跡地 現状の市民の利用を続けるために

 
今年6月、日本に返還された米軍深谷通信所(横浜市泉区)。直径1キロの巨大な円形の敷地には、長きにわたって使われていない施設が草に覆われて廃墟と化しています。
9月10日に現地視察、17日に防衛省から現状と今後の見通しについて説明を受けました。

米軍が使用しない基地は速やかに返還するのが日米間の取り決めです。
深谷通信所は1995年〜1996年にかけてアンテナが撤去され、1999年には司令官も配置されなくなりました。2004年には日米合同委員会で返還の方針を合意。ところが、いつ返還するのかは棚上げにされ、今年3月、突然、「6月返還」が決定したのです。
現在、防衛省の管轄となっていますが、年度末の突然の返還期日決定では、敷地を調査・管理する予算がつかず、埋設物や土壌汚染の調査は、来年度から本格的に行うとのこと。

ゲートを開けてもらい中に入ると、人の背丈ほどの雑草に覆われた広大な敷地が延々と広がっています。
巨大な鉄塔は160mもの高さ。どれほどの老朽化がすすんでいるかもわかりません。
鉄塔わきには、コンクリート造りの建物。通信機器などが置かれていたのでしょうか。中に入れてもらいました。
発電、送電機器は稼働していないため、窓もない建物は真っ暗です。
ドアからの太陽光を頼りに足を踏み入れると、カビ臭い空気が鼻をつきます。
大きな機器が据えられていたのだろうとしかわかりません。あちこちに廃材が散らばり、まさに廃墟です。

 
「アスベストに注意のシールがあります」と一人が声をあげました。
床に張られた小さなシール。注意喚起はこれだけ?
「アスベストがどこに使われているかも、これから調査ですか?」
「そうなります。燃料タンクやガソリンスタンドもあったので、そこは土壌汚染も疑われます」
しかし、防衛省の役割は「調査」だけ。施設や埋設物の撤去、土壌汚染対策などは、財務省が財政負担するのか、横浜市にも負担を求めるのか、これからの協議だというのです。
さすがに160mの鉄塔は専門的な技術を要するし、倒壊の危険がないとはいえないため、来年度防衛省の予算で撤去するとのこと。

返還とはこういうことなのか。
アスベストも土壌汚染もそのまま。使わなくなっても放置して、荒地と廃墟になるに任せておいて、「返還期日が来ました、あとはどうぞ日本で処理してください」というやり方。
日米安保条約、日米地位協定が、日本にとってどれだけ屈辱的なものかを目の当たりにした思いです。

 
しかし、深谷通信所の敷地内に整備された地域も広がっています。
ゲートの外側の敷地。ここには生活道路もあり、周辺地域との境界に金網もなく、市民の立ち入りが可能となっています。
近隣の住民のみなさんが、ただ放置するならと米軍と協定を結び、野球のグラウンド、農地などに使われてきました。市民が自らのお金と労力で整備を続けてきたのです。

ところが、国有地なので、来年3月31日までに、建築物などを撤去して国に戻すようにという財務省は、利用者のみなさんに求めています。
17日に防衛省から説明を受けたいと思ったのは、これでは、旧深谷通信所の敷地全体が荒地になってしまう、それよりも、跡地利用が決まり工事着工になるまで、現状のまま使っていた方がよいでしょう、という問題提起をしたかったからです。

埋設物の撤去など、費用負担を考えても、そんなに簡単に終わるものではないでしょう。
横浜市の跡地利用計画も、費用との関係、市民の意見、市議会での検討など、それなりの時間を要することになるでしょう。
その間、国が業者にお金を払って、年に数回の草刈りをしたとしても、現状よりも荒れた地域になってしまうのは目に見えています。

「野球グラウンドは、少年野球チームなどが2週間に1回草刈りをして整備している。同じことが国にできるのか」
「当面、市民が利用していた方が、地域のためにもなるし、国も予算の節約になるでしょう。お互いの利益になることを考えましょう」
私たちの提案に、防衛省の担当者も真剣に耳を傾けていました。

整備しなくなったらどうなるか、実は、10日もう一か所訪ねた米軍上瀬谷通信基地(横浜市旭区・瀬谷区)で、目の当たりにしました。
深谷通信所よりもはるかに広い242万平米を超える広大な敷地。来年6月の返還が決定しました。(ここも、使われなくなったのは10年前のことですが)。
この敷地内には県道が通っていますが、桜並木の幹が見えなくなるほどに雑草に覆われて、歩道から車が見えない状態になっているのです。

 
ウォーキングで通りかかったと思われるご婦人2人に声をかけてみました。
「返還の期日が決まったら、米軍は草刈りをやめてしまったのよ。だからみて、こんな状態」
「痴漢の被害もあって、どうにかしてもらわないと。ここは外灯もない道だからね」

このことは防衛省に写真を示して、すぐにどうにかしてほしい、交通事故や事件が起きかねない、と強く要望。
防衛省も写真の場所がどこかを真剣に確認し、「担当の部署に伝えます」と即答。

「上瀬谷通信基地は、半分近くが民有地なので、跡地利用は深谷よりもはるかに手間取ることになる。上瀬谷でも、農地やグラウンドで市民が利用しているところは整備されている。ここも、市民を追い出すようなことをしないで、荒地にならないようなやり方を工夫してほしい」

米軍基地返還、これは米軍基地がおかれた自治体で共通した要求となっています。
積極的に国際的な紛争をなくしていく外交努力を繰り広げて、事実上、中東への出撃拠点となっている米軍基地を日本からなくしていくことは大きな課題です。
そうでなければ、「米軍は使わなくなった基地を、気が向いたときに返還する」というやり方がまかり通ってしまうでしょう。
同時に、米軍がつくった建造物は米軍の責任で撤去することも強く求めなければなりません。